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風に消えてく歌
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冬流
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愛するバンドのライブへ行く(生きがい)/着物を着て出かける/愛猫&愛犬
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BLやBL風味を匂わす詩風や小説風なものや その時の気分などを書きなぐっています。
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悪魔 


「悪魔が来るよ 君を迎えに来るよ」

道化師が甲高い声で叫んだ

その日の興行も終わり 客も居なくなったサーカスの会場前を通り掛かった
ヒロシがその声に足を止めたのは 西日が辺りを真っ赤に染め上げる頃だった

振り返ると 道化師は優雅にペコリとお辞儀をして 笑った

ヒロシはおどけた化粧の道化師が 人を驚かせるために放った言葉など 気に
することはない と再び歩き出した

「だいたい 悪魔ってなんやねん」

ヒロシはズボンのポケットから ケータイを取り出した
ディスプレイは割れ 電源は入っていない いや もう電源は入らないだろう

「・・・アイツの事か」

ヒロシは苦笑いを浮かべた

ケータイを投げつけた時の”アイツ”の顔は 鬼か 悪魔か
殴られた頬は腫れ 唇は切れた
口の中は錆びた匂いと 鉄の味がした

愛しいと思っていた
今でも愛しいと思っている

二人で抗え切れないしがらみを 抱き合って泣いた夜は数知れない
それでも 二人で共に過ごせれば良い
二人が居れば それで良いと思っていた

気がつくとヒロシのシャツに大きな染みができていた

「嗚呼 こんなに汚れとったんか」

ヒロシは自嘲気味に笑った

アイツのか それとも 自分のか わからないけれど
いや 二人のものだろう

ヒロシは 手にこびりついた 酸化した赤を 服に擦った

「ヒロシ」

呼ばれて顔を上げると 前方にジュンが立っていた

「お前 何しとん 早よ来いや」
「ジュン 怒ってないの」

ジュンは優しく微笑みで答えた

二人は赤に汚れた手を繋ぎ 闇の濃い影の中へと吸い込まれて行った

「悪魔が来たってええよ 二人なら」

道化師は闇に溶けた二人の背中を 闇が街を包むまで見送った

逢魔ヶ刻

遠くで血に塗れた二人の体が 寄り添いあったまま冷たくなっていく

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