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風に消えてく歌
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冬流
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BLやBL風味を匂わす詩風や小説風なものや その時の気分などを書きなぐっています。
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再会

それは突然だった。

「よぅ」

何気なく いつも会う友達のようにかけられた声。
その 聴きなれているのに 懐かしい響き。
ヒロシは 一瞬躊躇った後に ゆっくりと後を振り返った。

「久しぶり やな」

その姿に ヒロシの胸の鼓動が大きく 速くなっていった。
何か言葉や 感情が 頭の中を渦巻くようだったが それらは決して言葉にはならず
ヒロシの頭の中を ただ ものすごい勢いで空回りしてく。

「…なんで…?」

声がかすれた。
ただ 一言発するのに とてつもない体力が要った。
金縛りにあったように 体が言う事をきかない。

「元気やったか?」

近づいてくるその懐かしい顔 しぐさ 声。
そして タバコの香り。

「なんで?」
「ん?」
「なんで今更…」

ヒロシの大きな瞳が 涙に揺れる。

何のための涙なのか ヒロシ自身 わからなかった。

「今更かもしれへんけどな…。お前には ずっと 謝りたかったんや」
「コゥちゃん…」

ヒロシの目から 大粒の涙が零れ落ちた。

「許す気…ないんやろな」
「………」

ヒロシは腕で涙を拭った。

「俺…は…許すとか許さないとか…そんなん…」
「…ヒロシ」

俯いたままのヒロシの顔を そっと 大きな手が撫でた。
そして 上を向くようにと促した。
促されるままに ヒロシが顔を上げると まっすぐにヒロシを見つめる視線があった。

時が止まったような気がした。
いや 時が戻ったような気がしたのか。

気付くと ヒロシは唇を受け入れていた。

「…アカン!」

我に返ったヒロシは その肩を突き放した。

「ヒロシ」
「………」
「やっぱり 許してもらえんのか?」

ヒロシの胸の奥で けたたましく警鐘が鳴り響いている気がした。

「……それ まだ持ってたんやな。…少しは 期待してええんか?」

それ と言われて ヒロシはハッとする。
左手首につけた シルバーのブレスレット。

「その…リングは…?」

左薬指のシルバーのリングの事だろう。
ヒロシは左腕の感覚がわからなくなっていく。
言葉も思考も ただ 頭の中で空回りを続けている。

「ヒロシ…」
「ヒロシさーん」

呼ばれた声で ヒロシは反射的に顔を上げた。
そこに居たのは コージの相方のリツ。

「…えっと…」

その場の雰囲気を察したのか リツは次の言葉を躊躇った。

「…出直してくるわ」
「コゥちゃん」

そう言って リツの横を通り抜けて行った。

「ゴメンなさい…。僕…悪い事しちゃいました…よね?」
「いや…助かった…」

ヒロシは少しだけ泣きそうに どこかホッとした顔で僅かに笑った。



「ね コージはヒロシさんとの付き合い長いんだよね?」
「ああ…そうかもな」
「ヒロシさんが『コゥちゃん』って呼ぶ人 知ってる?」
「『コゥちゃん』!?」

それまで 寝転んでテレビを眺めていたコージが跳ね起きた。
その勢いに驚いて リツはインスタントコーヒーを入れようと 手にしていたポットからお湯を
零して 手にかけてしまった。

「あちちち!」
「大丈夫か?!」

コージはとっさにリツの手を握ると そのまま台所へ引っ張っていき リツの手を蛇口から
流れ出る水道水に突っ込んだ。

「だ 大丈夫だよ。赤くなるだけだろうし…」
「いや ちゃんと冷やしておかないと」
「…ねぇ 『コゥちゃん』って人…ヒロシさんとどんな関係?」
「なんでお前が『コゥちゃん』のこと知ってるんだ?」
「今日 ヒロシさんのところにCD返しに行ったんだけど… そこで会ったよ」
「………」

暫しの沈黙。
水の冷たさに耐えかねて リツが蛇口の水を止めると ようやくリツの手を放したコージは
テーブルの周辺に零れたお湯を拭き始めた。

「…何か 言ってたか?」
「え?」
「『コゥちゃん』」
「別に。僕が行ったら 出直すって言って帰ったみたい。…なんだか 重苦しい空気が
漂ってたよ」
「…ふぅん」
「コージとも知り合いなんだ?」
「うん」

コージはコーヒーを入れなおすと ひと口啜ってから 何か思いついたようにラックの
奥から一冊のアルバムを取り出して広げてリツに見せた。

「これが『コゥちゃん』」

コージが指差した所に映っているのは 楽しそうな笑顔を浮かべる『コゥちゃん』。
若干 リツが会ったのよりは若い感じがする。

「隣に居るの ヒロシさんだね」
「うん」

『コゥちゃん』に肩を抱かれて 楽しそうに笑うヒロシが居た。その隣にコージともう一人。

「これな かれこれ5年近く前の写真なんよ」
「…5年」
「『コゥちゃん』…てのは 当時のヒロシの相方」
「……」

想像できた答えだ。
リツは写真を見つめた。

「『コゥちゃん』は この写真撮った半年後に急に居なくなったんや」
「え?」
「『コゥちゃん』には ヒロシと付き合う前から 彼女もおったんやけど 彼女から結婚を
迫られてたりして かなり悩んでたんやな。ヒロシとは最初 お互い遊びやて言ってたし
彼女はヒロシと『コゥちゃん』の関係疑ってなくて…。まぁ 当然やろうけど」
「それで… 結婚して ヒロシさんと別れたの?」
「それがな… 『コゥちゃん』もヒロシも それなりに本気になっとたんやな。それで『コゥ
ちゃん』は相当悩んだんやと思う。そこまでになってた自分が信じられなかったんやろ」

コージはコーヒーをひと口啜り テーブルに置かれた写真に視線を落とす。

「…で… 結局は逃げ出してもうたんやないかな…。ある日突然 消えたんや」
「………」
「その直後 『コゥちゃん』の彼女がヒロシのところにも行方を捜しに来たんやけど その
頃にはヒロシとの関係にも疑いを持つようになっとったみたいで… 修羅場やったわ」

コージはそこまで話すと その時の事を鮮明に思い出したのか 小さく身震いすると 
タバコに火をつけた。

「…その人が… 今日 ヒロシさんの所に来てたんだ…」
「何しに現れたんやろな」

コージの言葉から リツはコージが『コゥちゃん』を許せないで居る事を察した。



ヒロシは部屋の明かりを付けるのも忘れて 街の明りが綺麗に見える窓の外を
ぼんやりと眺めていた。
どこかで 彼が戻ってくるのを待っていた。
けれど それは 恐怖でもあった。
様々な想いが 思考を許さなかった。
何もする気にもなれず ヒロシは暗い部屋で ぼ~っ とするしかなかった。
右手で 左手首のブレスレットをいじりながら。

「出直してくる」

そう言っていた。
ヒロシは ジュンと彼が鉢合わせする事だけが気がかりだった。
気の短いジュン。カッとなったら 手のつけようがない。
コゥちゃんも 冷静な人だが 売られれば喧嘩っぱやい。

コゥちゃんに 自分への想いが微塵もないのなら それも心配ないのかもしれない。
しかし 今日の様子では 自分に対して少なからず何か想いを持っているようだ。
許しを請いたいと言っていた。
許されたら…どうするつもりなのか。

自分は どうするつもりなのだろう?

ヒロシは ふと 我に返った。

「俺は…」

ジュンに貰ったリングを撫でながら 涙が溢れ出てくるのを止められなかった。

「俺には…ジュンが居る」

薄暗い部屋の中で ヒロシは声を殺して泣いた。
何故泣くのか わからないまま。


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