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風に消えてく歌
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冬流
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愛するバンドのライブへ行く(生きがい)/着物を着て出かける/愛猫&愛犬
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BLやBL風味を匂わす詩風や小説風なものや その時の気分などを書きなぐっています。
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再会(2) -Door-8-

ヒロシはドアをノックする音に目を覚ました。

「ヒロシ 居る?」

瞼が腫れぼったいし 顔がベタベタする。微かに頭も痛い。
何時の間にか 泣きつかれて眠っていたようだ。
部屋の空気の冷たさに 軽く身震いした。

「ヒロシ」

ノックの音に続いて 再び呼ぶ声。
ヒロシは腕で顔を拭きながら立ち上がり 玄関のドアを開けた。

「ああ 居ったんか。居ないのかと思って もう帰ろうかと…… どないしたん?」

ドアの前に居たのは ヒロシより頭一つ分背の高い ヨシカズだった。
そのヨシカズを見上げる顔が 泣きはらしている事を 薄暗いアパートの通路の蛍光灯の下でも見て取れる。

「ジュンと喧嘩でもした?」
「ううん。なんでもない…」
「なんでもないことないやろ?」
「……」
「俺には…話せない事?」
「………なんでもないから。それより 何?」

ヒロシは顔を擦ってから ぎこちなく笑ってヨシカズを見上げた。

「…ジュンに借りてたDVD返しに来たんや。あと 貸す約束してたCDも」
「そっか。アイツ アルバイトで明後日まで帰らんのや」
「…なんや そうやったんか…。まぁええわ。ヒロシに預けとくから ジュンが帰ってきたら渡して」
「うん」

ヨシカズは手に持っていた CDショップのロゴの入った袋をヒロシに手渡す。それを受け取ろうと ヒロシが袋に手を添えたが ヨシカズは袋から手を離さない。

「ヒロシ」
「ん?」
「何か 悩みがあるんやったら 話して。俺じゃ頼りないかも知れんけど… 一人で悶々としとるよりはマシやろ?どうせ ジュンの事なんやったら…」
「ジュンとは…関係ないねん」
「ジュンのことやないんか?」
「…うん」
「じゃあ…何?」
「………」

暗い部屋の中で ケータイが着信を知らせている。古い曲だった。
ヨシカズはヒロシの趣味とは少し違う その曲に違和感を感じた。

「…電話ちゃうの?出ないんか?」
「………」

着メロが鳴り始めたとき ヒロシはかなり驚いた様子を見せた。
全身がビクリと跳ねた。それは お互いに手を離さずに居たCDの袋を通じてヨシカズに届いている。

「珍しいな…。ヒロシ あんな曲好きだったっけ?」
「………」
「ジュンからやったら ジュンの好きな曲にしてるんやったよな。あれ ジュンの趣味ともちゃうやろ。相手が誰だかわかってるから… 出たくないんか?」
「………」
「ヒロシ… 何か悩み抱えてるなら教えてくれ。俺 お前の力になりたいんや」

ヨシカズは俯き加減のヒロシの顔を覗き込んだ。

着メロが途切れた。

「…コゥちゃんが…帰って来たんや」
「コゥちゃん?」

ヨシカズには覚えのない名前のような気がした。しかし ふと 一度だけヒロシの口から出た事を思い出す。

「ブレスレットのコゥちゃんか」

以前ブレスレットの話をした時 一度だけ出た名前。
ヨシカズの視線が ヒロシの左手首に向けられた。

「…昔の相方やろ?帰って来たって…どういうこと?」
「ヨシくんには関係ないから」

「関係ない」。その言葉がヨシカズの胸に突き刺さる。
ヨシカズは小さく息を吐くと CDの袋から手を離した。

「…そういう言い方されると 傷つくわ…。俺 ほんまにヒロシの事が心配なんやで?」

ヒロシは俯いたまま 微動だにしない。

「ヒロシ… そのコゥちゃんが帰ってきてるって ジュンに言ってもええ事?俺じゃあかんなら 俺はジュンになんとかしてくれって頼むで?」
「……入って」

ヒロシは観念したように ヨシカズを部屋の中へ入れた。
テーブルの上に置かれたケータイの画面には 留守電の録音されているアイコン。
ヒロシはケータイを前に立ち尽くし ケータイを見下ろしていた。
動けないヒロシの代わりに ヨシカズが部屋の明かりを点ける。

「…あ ごめん。ありがと」

ヒロシは明りが点いたことに 反射的に顔を上げ ヨシカズに礼を言うと ヨシカズを適当に座らせて 一旦バスルームへと入って行った。
顔を洗い 部屋の中で待つヨシカズの傍に座ると ケータイの着歴を確認する。

「…昼間 コゥちゃんが…来たんや」
「来た…って ここに?何しに?」
「……許してもらいたいって…言うてた」
「…そのコゥちゃんて人と 昔どんな事があったん?何を許すん?」

ヒロシは何から話せば良いかを考えこんだ。
ケータイの最新の着歴には『コゥちゃん』の文字。

「ちょっと 待ってくれる?」
「うん」

ヒロシは留守電を確認する。

『…オレや。ケータイの番号 変わってないんかな?後でメールもしたいんやけど メアドも変わってないことを祈るわ。……できれば一度 ゆっくり二人きりで話したいと思ってる。また 連絡する』

ヒロシの心臓は 早鐘のようだった。
緊張感に気分が悪くなりそうな圧迫感。

ひとつ 大きく深呼吸すると ヒロシはポツリと語り始めた。

7年ほど前 ヒロシは田舎から上京し 専門学校へ通っていた。
アルバイトをしながら 気の合う仲間とバンドを組んで 下手くそなりに楽しんで居た。
そんなある日 バンド仲間を通じて知り合ったバンドに コゥちゃんが居た。
そのバンドのライブへ通うようになったヒロシは コゥちゃんやコージたちとバンドを組むことになった。
バンドはそこそこの集客があり ライブもワンマンができるくらいになって行く。
当時 コゥちゃんには彼女が居て 結婚の約束をしていた。
しかし いつしかヒロシとの間に 不思議な感覚を覚えていたコゥちゃんは ヒロシと関係を持つようになって行く。
お互いに 最初は遊びだった。
酔った勢いの ふざけた遊びだった。
しかし 段々と違う感情だと気付いていく。
本気だと認めてしまう前に 軌道修正したいと思ったコゥちゃんは 彼女と婚約を正式にして 結婚式も計画して行く。
ヒロシは そんなコゥちゃんの本当の気持ちに気付かないまま。
しかし コゥちゃんから ヒロシへの想いに気付いてしまい どうにもできない と打ち明けられる。
戸惑いながらも ヒロシは嬉しかった。
ずっと 憧れていた人だった。
彼女から奪い取ろうとは思わない。彼女の元へ返すべきだと思う気持ちもある…。
しかし コゥちゃんはそうはいかなかった。
ヒロシは必死で説得しようとしたが 逆上したコゥちゃんに暴行を受けた。
そして コゥちゃんは 忽然と姿を消した。

ヒロシはおおまかに過去に付き合っていたコゥちゃんいついて語り 語りながらブレスレットを外した。

「つまり…自分の感情と 周囲からのプレッシャーに挟まれて 逃げてしまったんやろ」
「それが いきなり帰ってきて…よりを戻そうとしてるのか」
「よりを戻すつもりかはわからんけど…」
「でも ヒロシにはジュンがおるやろ」
「……うん。せやから……」

ケータイがメールの着信を告げた。

「…その人から?」

ヒロシは言われてケータイを見る。

「…うん」
「なんやて?」
「…………」

メールを読む目の動きが ケータイよりも下へ落ちる。

「見せて」

ヨシカズがヒロシのケータイを半ば奪うように手に取る。

『明後日の夜 また会いに行く』

「どうしよう…」

ポツリと小さく 震える声。

「明後日の夜には ジュンも帰ってる…」
「会う気はないって メール返せばええやん」
「………」
「会いたいの?」
「………」

ヒロシの視線が落ち着かずに泳ぎ続ける。

「…ヒロシは そのコゥちゃんて人の事 まだ好きなんやな」
「俺は…ジュンが…」
「ジュンはその人の代わりてことやろ?」
「!違う!ジュンはジュンや!」

ヒロシはヨシカズを真っ直ぐに見据えた。

「…それが本当の気持ちやんか」

ヨシカズはニコリと微笑んだ。
ヒロシはポカンとしていたが その言葉の意味がわかったのか 表情が少し和らいだ。

「そうや…。コゥちゃんとはあの時終わったんや」

ヒロシはそう言うと ヨシカズからケータイを取り メールを打ち始める。
送信して ケータイを閉じると ため息をひとつついた。

「俺 もう大丈夫や。もう 気持ちをはっきりさせた」
「…で?どないするん?」
「とりあえず 明後日の夜会うって事にした」
「え?ジュンと鉢合わせするやろ?」
「大丈夫や。俺が揺るがなければ大丈夫やろ」

そう言って笑うヒロシの顔には 決意と自信が見えた。
ヨシカズはそう思った。
けれども 何か えも知れぬ不安も湧き上がっている気がした。

「…明後日の夜か…。俺も心配やから 様子見に来てええ?」
「大丈夫やって!全部終わったら連絡するから」
「…うん」
「よし。ジュンにも話しておかないとな。今の時間なら電話に出られると思うし」
「…そっか。ほんなら 俺はこれで」
「うん。サンキュな ヨシくん」
「ん。報告待ってる」

ヨシカズは ジュンに電話をかけるヒロシの声を聞きながら ドアを閉めた。
言いえぬ不安は変わらずに 胸の奥からじわりと広がるようだった。




 

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