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風に消えてく歌
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冬流
性別:
非公開
趣味:
愛するバンドのライブへ行く(生きがい)/着物を着て出かける/愛猫&愛犬
自己紹介:
BLやBL風味を匂わす詩風や小説風なものや その時の気分などを書きなぐっています。
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さよなら


テレビ画面を前に 浩哉は手にしていたゲーム機のコントローラーを
放り出した

足を怪我して以来 バンドの練習にも参加できず かろうじて事務
メインの作業に回して貰えたバイトに行く以外に外にも出ることは
なくなった
そんな浩哉の暇潰しがテレビゲームだが それも毎日では飽きる

バンドはライブが決まっていた
しかし バンドのメンバーは一人として愚痴ることはなく 浩哉を
心配して 暇さえあれば浩哉の様子を見に来たり メールや電話を
かけてきてくれる
浩哉はそんな仲間のために 別のバンドに所属する友人に頭を下げ
自分の代わりにドラムを叩いてくれるように頼んだ
メンバーたちはそれを最初は喜んではくれなかったが やっとの
思いでこぎつけたワンマンライブのチャンスをどうしても自分の
ために諦めて欲しくはないと説得した

もう ドラムを叩ける体には戻れないかもしれない
それにメンバーを巻き込む事はできない

「リハが始まった頃かな …あー ドラム叩きてぇなぁ…」
浩哉はその場でゴロリと寝転んだ


「浩哉」
耳元で声がして浩哉は目を開けた
「こんな所で寝てると風邪ひくよ」
気が付くとすぐ横で浩哉を見下ろす見慣れた顔があった
「亮太?今日はスタジオでリハじゃ…」
「それなんだけどさ」
亮太は体を起こした浩哉の前で正座する
そして おもむろに両手を床につくと額を床に擦らんばかりに頭を
下げた
「ごめん!ライブ駄目になった!」
「は?」
「機材を機材車ごと大破させちゃった」
「事故ったのか!」
「うん ごめん」
亮太はうなだれたまま顔をあげない
「怪我は?他の奴らは?」
「車に乗ってたのは僕だけ みんな無事だよ 僕も見ての通り」
「諦める事ねぇよ 機材なら借りれば」
亮太は小さく首を振った
「やっぱり 僕たちは浩哉が良いよ」
「俺は…」
「僕は浩哉のドラムが好きだ 浩哉に叩いて欲しい 諦めないでよ」
亮太が悲しそうに笑った


浩哉が目を覚ましたのはケータイの着信音に起こされて だった
テレビはやりかけのゲーム画面のまま
「夢?」
時間は20分も経っていなかった
ケータイの表示はバンドメンバーの誠人の名前
「もしもし」
「浩哉!亮太が死んじゃったよぉ!」
誠人は泣きじゃくり それ以上は言葉にならなかった
浩哉は悲しそうに笑った夢の中の亮太を思い出していた


一年後 ライブハウスのステージに立つ浩哉の姿があった
「お前がまたドラムを叩けるようになるなんて正直思わなかったよ」
ドラムのセッティングをする浩哉にギターのアンプを調整しながら
晃司が呟くように言った
「俺も」
浩哉は愛しそうにドラムセットを撫でた
「亮太が守ってくれたんだ 俺も バンドも」
二人はフロアを見つめて小さく微笑んだ
今は居ないメンバーの想いを感じながら

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