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風に消えてく歌
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冬流
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愛するバンドのライブへ行く(生きがい)/着物を着て出かける/愛猫&愛犬
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BLやBL風味を匂わす詩風や小説風なものや その時の気分などを書きなぐっています。
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幸せの夜に


「クリスマスかー…」

ヒロシが夜空を見上げて呟いた。

「そうやで。せやから、俺らこんなんやっとるんやろ」

隣でヤンキー座りでタバコをふかすジュンが、煙を言葉と一緒に吐き出した。
二人はにわかサンタクロース姿。ヒゲはないが、安っぽい衣装でそれなり。

「世間は大人も子供も浮き足立って…。クリスマスってなんやったっけなー?」

ジュンはタバコを足元に落して立ち上がり、コンクリートの上で踏み、火を揉み消す。
白いコンクリートは真新しい。黒い炭が跡になる。

「こーんな時期にスーパーをオープンせんでもええやんかなぁ?忙しすぎて目が回るわ」
「お陰でええ時給のバイトが入ってきたんやんか」
「こんな格好で看板持ちやで!?凍え死ぬわ!」
「まぁまぁ」

ジュンがイラついているのにはワケがある。
休憩に入る少し前、小生意気な小学生が5人ほど現れ、サンタクロースの格好のジュンに絡んできたのだ。
短気なジュンがそこで爆発しなかったのは、本当に奇跡に近い。

「せやけど、お前よく我慢したな。俺、遠くから見てて、ガキども殴り飛ばすんやないかとヒヤヒヤしてたんや」
「……まぁ、大人になった?ってゆーか?」
「なんやそれ?充分大人やぞ俺ら」

ヒロシはそれはおかしそうに、軽い声で笑った。

「寒くないようにて、下に色々着込んだけど、やっぱアカンなぁ」
「カイロ増やす?貰って来ようか?」

震えるジュンに、ヒロシが事務所に繋がるドアを開けようとした。

「お前があっためて~♪」
「アホ」

ヒロシは抱きついてくるジュンの頭を軽く小突いて、事務所へのドアを開けた。
開いたドアからは、まるで別世界のように暖かな空気が流れ出す。
二人はその暖かさに吸い込まれるように建物の中へと入った。
事務所にはパートのおばさんが数人と、正社員の男性が数人居て、見るからにヤンキーな二人にも人懐こい笑顔で声を掛けてくれる。
「予備に」と、そんな人たちに余分にカイロを持たされて、ジュンは再び看板を担いで外へ出る事になる。

「お前はなんで、かろうじて建物の中なんや?」
「さあ?一応持ち場や言われたしな…」

ジュンは外、ヒロシはスーパーの入り口が持ち場。
本来ならば、入り口に立つのは可愛らしい、若い女の子なのだろうが、生憎とこの日は人手不足だった。

「昨日まで居た女の子達、なんで肝心な日に居らんのやろな?」
「肝心な日やからやろ」

バックヤードの出口まであと少し、と言う所まで来たジュンは、ピタリと足を止めた。

「どないしたん?」

ヒロシが振り向くと、ジュンは周囲を見渡す。
いつも人の出入りが激しいこのバックヤードの通路に、この時は珍しく二人以外居ない。

「ヒロシ」

ジュンはヒロシの肩に腕をかけて引き寄せる。そして、そのまま唇を重ねた。

「何するん…!」
「ええやんか~。また暫く離れ離れなんやし」

照れて頬を赤らめるヒロシに、ジュンはしてやったりとにやけ顔。

「ほな、残り3時間がんばろなー」

ジュンは言いながら歩き出す。
その直後から、まるでタイミングを計ったかのように、通路を人が行き来し始めた。

「アホ!」

先を行くエセサンタクロースの背中に、ヒロシは呟いた。





事務所を出た二人は、サンタクロース姿から普段の姿に戻っていた。

「なんや…ヒーローの時間も終わった…って感じや」
「お前のサンタはヒーローなんか?」

ジュンが笑いながらタバコに火をつける。

「まぁ、コスプレって、気分もそうなるしな」
「……ジュン、コスプレしたことあるんか?」
「まぁまぁ」
「何がまぁまぁやねん」

ジュンはヒロシの肩に腕を回して歩き出した。
空は一面の星空…のハズ。都会の空は薄く白くぼやけていた。

「雪は降らないな…」
「クリスマスだからか?」
「うん」
「そんなん振るわけないやろ」
「そうやけど…」

二人の吐く息は白く、絡み合って流れていく。

「あ、ちょお待って」

ジュンはそう言うと、1軒の店に入っていく。ヒロシは店の様子に訝しげな顔をしながらも、ジュンの後を追って中に入った。
店の中は温かく、甘い香りが充満している。小さな洋菓子店だ。閉店間際なのだろう。客は自分たち以外には見えず、さすがにディスプレイの中のケーキは閑散としていた。

「お待たせしましたー」

店の奥から、女性がリボンでラッピングした箱を手に出てきた。

「どーもー」

ジュンはそれを受け取ると、後に居たヒロシを振り返り、「行こ」と店の外へと誘った。二人の背中に「ありがとうございました」と言う、女性の声が届いた。

「何買うたん?」
「ケーキ」
「ケーキ!?」

柄でもない…と続けたかったが、クリスマスだ。それに、ジュンは酒には弱いが、甘い物はいけるクチだ。

「後な、たぶん帰ればヨッシーがシャンパン持って来てくれてるハズや」
「ヨシくんが??」

これもまた意外な組み合わせ。ヨシカズも下戸だ。

二人がアパートに着くと、ドアの前でヨシカズがタバコを咥えて立っていた。

「寒い中待たせてすまんな」
「たぶんこのくらいの時間になるやろと思って、今来たとこやねん」
「なんやそれ」

ヨシカズはニッと口の端を上げて笑う。

「俺の知らないとこで二人で何を企んどったん?ケーキにシャンパン?似合わないでぇ?二人とも」

訝しげに二人を交互に見るヒロシ。
コタツの上にケーキとシャンパンが並び、色気のないコップが置かれていく。

「そのうち鳥担当も来るハズや」
「誰?」
「コージ」
「コージ!?」

その次の瞬間だ。

「べりーくるしみまーす!!」

声と同時に、クラッカーが2発、玄関先で破裂した。

「うわ!何や寒いこと言って…てかビックリした!」

ヒロシが玄関を見ると、驚いたヒロシの様子を可笑しそうに腹を抱えて笑うコージが居た。その隣には、なにやら袋を手に提げて立つコージの相方、リツの姿。

「遅くなりました」
「全然待ってないよ。上がれや、りっちゃん」

呼ばれてリツが玄関を上がる。コージはまだ笑が止まらないようだ。

「うっさいわー。近所迷惑やから帰って」
「なんでー?せっかくチキン用意したったとに」

言われてもまるで気にしない様子のコージは、そのまま玄関を上がってこたつまでやって来ていた。

「待て待て。りっちゃん、ここ入り」

ジュンは開いている1辺を手で叩きながら、リツに座るように促し、並んで座ろうとするコージの足を叩いて制する。

「なんやージュンちゃん!俺の席は?」
「お前は立っとれ」
「なんでー!?じゃあ、ここでええわ」

コージはそう言って、ヒロシの後に座り、足の間にヒロシを入れて、後からヒロシを抱きかかえた。

「アホかー!!」

ヒロシとジュンから同時に突っ込みのが入り、コージはあえなく転がった。

ひと段落ついて、ケーキに蝋燭が並び、火が灯された。そして、ジュンが部屋の明かりを落す。

「なに?クリスマスやのに、誕生日みたいやん」

笑うヒロシに、全員の視線が向いていた。

「え?」

状況を飲み込めないのは自分だけ、とわかったヒロシはキョトンと全員の顔を見回す。

「ほら、もう、だいぶ過ぎたけど…、お前の誕生日、俺は夜勤でお前とは時間がすれ違ってたやんか。お祝いしてやれんかったから、今日はそれもあるんや」

ジュンが照れくさそうに事の真相を明かした。

「ほら、お前らいっつも赤貧や言うてて…まぁ、俺も変わらんけど、あんまりこういうことしてないと思ったからな。俺らも暇してたんで…パーティでもしよか?って話になってん。ちょうど、今日ならお前ら日払いのバイト入るて言ってたから、ちょうどクリスマスやしええんやないか?ってな」

ヨシカズが、やはり照れくさそうに説明する。
つまり、ジュンがヒロシの誕生日に何もしてやれなかった事をヨシカズに話したところ、パーティでもしようか、と言う話の流れになったようだ。

「ささやかながら、俺達もそれに参加させて貰う事に…な?」
「うん」

コージとリツが顔を見合わせて微笑み合う。

「なんや…みんな俺のために?」

ヒロシがこれまた照れくさそうに笑う。

「そういうことや。…てなわけで、いくでー」

ハッピーバースデー トゥーユー…♪

4人の歌声が小さく部屋中に流れる。
窓の外は、このアパートが高台にあるために、景色だけは良く、夜景がキラキラと見えている。部屋の明かりを消しているから尚の事…。
そして、蝋燭の暖かな光と、それに照らされた5人も、窓には映っている。
ヒロシは4人の顔と、窓から見える景色と、4人の自分を祝う声を、ひとつずつ、かみしめる様に胸に刻んだ。
蝋燭の日が消え、ささやかならがらのお祝いの拍手。

5人は賑やかに時を過ごした。

数時間後、酔いつぶれたヨシカズを連れて、コージとリツが帰って行った。
それを見送ったヒロシが部屋に戻ると、コタツでいびきをかいている、もう一人の酔いつぶれた人間を見下ろした。

「…こら、朝まで起きないかもなぁ」

ヒロシはジュンの隣にしゃがみこむと、その寝顔を覗き込んだ。
いつもなら、唇や鼻にピアスを付けているのだが、今日はバイト柄それらをいっさい付けていなかった。

「……スッピンや」

ヒロシは小さく呟いて微笑む。
暫くその寝顔を眺めていたが、人数の減ったせまい部屋は、急激に室温が下がり始めていて、ヒロシは小さく身震いした。

「ここに寝かしてたら風邪ひかれるな…。ジュン、ちょお、ベッドまで行こうや」

ヒロシはジュンの腕を肩に回して、コタツから体を引き抜くと、すぐ隣のベッドの上に押し上げた。
ベッドの奥へとジュンを押し、掛け布団をかけてやる。が、ジュンは一向に目を覚ます気配を見せなかった。

「…ったく…」

ヒロシもそのまま布団に潜り込む。

「ありがとな…」

ジュンの耳元で囁いて、頬に軽く唇を当てた。
と、その時、突然ジュンがヒロシに覆いかぶさった。

「お礼してくれるんやったら、そんな可愛らしいのより一発やらしてくれた方がええんやけど?」
「ジュン!寝てたんやないんか!?」
「残念ながらー。狼はいかにして美味しく頂くかを考えてました」

ジュンの右手がヒロシのベルトを外し、器用に片手だけでズボンを脱がしていく。

「なんや!やめろっって!そんなんする気ないっちゅーんじゃ!」
「これ」

おもむろに、ジュンは左手に握っていた物を、ヒロシの顔の前に突き出した。

「え?」

ヒロシはそれを受け取る。

「これ…本物?」
「まがいもん」
「……」
「俺が作ったレプリカ」
「え!?」

ヒロシの手の中で光るのはシルバーリング。有名なシルバーアクセサリーブランドのものによく似たデザインだった。

「お前、この前のバイト先で、シルバーアクセの本見ながら欲しがってたやろ?せやから…モノホンは買えんけど、似たようなもんなら…と思ってな」
「いつの間に……」
「ダチに居るんよ。こういう仕事しとるのが。そいつに教えて貰って、手伝ってもらって」
「ジュン…」
「やっぱりモノホンの方がええよな?」
「……いや、こっちが良い…。ありがと……」

ヒロシはそっと指にリングを通そうとしたのだが、入る指がなかなか見つからない。

「これはこっちや」

ジュンはヒロシから指輪を取ると、ヒロシの左薬指にはめた。
サイズもピッタリだった。

「……どうしてこのサイズ…」
「お前が寝てる間にちょっと測らせてもろてん」

ジュンは、自分の左の薬指にも同じリングをして見せた。

「結婚指輪や」
「……アホ」

二人は笑い合って、キスを交わした。


その頃、リツの運転する車はヨシカズのアパートの前に停まった。

「ヨシくん、着いたで?」
「んー…」
「本気で酔ってるね…」

コージとリツは苦笑いで顔を見合った。
潰れたふりをして、部屋を出るシナリオだった。
全てはジュンの作り上げた計画。

「おーい、ヨシくんてば。起きないとこのまま俺達の愛の巣まで連れてっちゃいますよ?」

リツがふざけ口調で呼びかけると、ヨシカズがゆっくりと目を開けた。

「……やない…」
「え?」

何かを呟いたヨシカズは、大きくため息をついた。

「…悪かったな。送って貰って」
「ううん。大丈夫?」

リツが心配そうに声をかけると、ヨシカズはリツにニコリと微笑んで、軽く頷いた。
思わずリツの頬がほんのり色づいたが、それに気付いたのは本人のみだろう。

「……俺…本気やったんや…。一瞬やったけど」
「何?」
「ヒロシ…」

上手く聴き取れないヨシカズの言葉を聞き返したリツとコージは顔を見合わせた。

「ヨシくん…」
「一人身は俺だけやな。寂しいロンリークリスマスやー」

ヨシカズはわざとらしくそう言って笑うと、車のドアを開けた。

「ほんじゃ、あんまりはりきりすぎないようにな、お二人さん」

ヨシカズはそう言って車を降りると、そのままアパートの部屋に向かって歩き出した。

「ヨシくん」
「ん?」

窓を開けて、リツが呼び止める。

「……メリークリスマス」
「んふ…。メリークリスマス」

ヨシカズは後手で手を振って、アパートの階段を上っていった。

「……なんか…悪かったのかな?この計画に彼誘っちゃって」
「ヨシくんが最初に言い出した事や」
「え?そうなの?」

コージの言葉に、リツが目を丸くする。

「ヨシくんがヒロシのこと、かなり好きやったのを知ってるのは俺達だけや…」
「……うん」
「そんで、ヨシくんが誰よりヒロシの幸せを願ってるのを知ってるのも俺達だけ」
「うん」
「ヨシくんは、きっとこれでええと思ってる」
「本心でなくても…そうかもしれないね…」
「…行こう」

ほんの少しの寂しさの空気をそこに残して、車は走り去った。



幸せがふり注ぐ夜
街の片隅の 小さな物語

メリークリスマス

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